なかとみ牧場見学記

 

  

2003年4月12日(土)、グリーンコンシューマー関東ネットワーク(代表/緑川芳樹・飯田和子)主催の「なかとみ牧場見学会」が行われました。なかとみ牧場は、オーガニックスーパー「マザーズ」などで販売されているノンホモ・低温殺菌牛乳の生産牧場。今回の見学会は、消費者として「生産現場を知る」ことが目的です。

 

「富士あさぎり放牧牛乳」の生産牧場


横浜駅前から、バスはほぼ定刻通りの午前8:30分過ぎに出発。参加者は、親子連れから若い男女まで、25名。東名高速に入り、バスは計2時間半余り走りました。なかとみ牧場は、富士山西麓の富士朝霧高原(静岡県富士宮市)にあります。富士朝霧高原は、標高450〜900mで、約千ヘクタールの牧草地が広がる酪農地域です。横浜では曇り空でしたが、標高が高くなるにつれ、霧のような細かい雨が降ってきました。

 

「なかとみ牧場」二代目の中島邦造さん(61)が、笑顔で迎えてくれました。現在、主に搾乳牛の世話をしているのは三代目の娘さん夫婦で、邦造さんは子牛の世話係です。

邦造さんは、まず搾乳舎へ案内してくれました。ここには、乳牛12頭の乳を搾れる機械が並んでいます。搾乳機を見て、一頭の牛に乳房は4つあることを初めて知りました。現在、なかとみ牧場にいるのは、乳牛96頭と、子牛40頭。毎朝5時と夕方4〜5時の1日2回、牛達はここで順番に搾乳されます。一頭の乳牛から一度の搾乳で十数gの乳が取れ、一頭一日平均25〜26g、96頭分合わせて日量約二・五dの牛乳が、なかとみ牧場で生産されます。

 

ここで搾られた牛乳は、地元の富士開拓農協を通じて、朝霧乳業鰍ヨ全量売られ、そのうちの一部が、65℃30分の低温殺菌を経て「富士あさぎり高原放牧牛乳」として、マザーズや、JACなどの自然食品店、にんじんクラブの宅配などを通じ、関東・中部地方の消費者に届けられています。

 

乳脂肪分の上昇で減った放牧


中島さんの話で、特に印象に残ったのは、乳脂肪分の自主取引基準が、牛乳の消費拡大のため1987年に三・二%から三・五%に引き上げられてから、放牧をやめ、牛を畜舎に入れっ放しにする酪農家が増えた、という話でした。

大手乳業メーカーと全国レベルの酪農家団体の間で決められるその基準は、全国に波及力をもちます。酪農家からの牛乳の買取価格は、大まかに全国八つのブロック毎に決められています。乳脂肪分が取引基準以下の牛乳は、指定価格での買取の際、1gあたり数円程度のペナルティ金を取られます。乳脂肪率が下がるほどペナルティ金額は高くなり、逆に脂肪率が基準より高ければ加算金が付きます。

特に夏は、放牧すると牛は水っぽい牧草を好んで食べ、乳脂肪率が三・五%を切ってしまいます。畜舎に入れたままで穀物を含む濃厚飼料を与えれば、乳の脂肪分は高くなりますが、乳牛としての寿命は短くなるといいます。広大な牧草地が広がる朝霧高原でも、現在、酪農家66戸のうち、放牧をしているのは20戸にとどまります。

 

なかとみ牧場では、十二〜三月の厳冬期以外、毎日朝十時から夕方四時まで、厳暑期には夕方五時から朝四時半までの夜間も、十七fに及ぶ牧草地で放牧します。餌全体では牧草が約六割を占め、国産生ビール粕や米国産大豆油粕等を含む配合飼料も与えています。

「富士あさぎり高原放牧牛乳」の乳脂肪分の表示は「三・三%以上」。富士開拓農協の酒井良則さんによると、「放牧牛乳」の乳脂肪分は、冬は三・六〜三・七%ですが、夏は三・四%くらいになるそうです。多少ペナルティを取られるとしても放牧にこたわる理由を中島さんは、「牛と共生したい」と答えました。

 

牧場で生まれた雌牛は、1才〜1才3か月になると種付けされ、それ以降ほぼ年一回出産します。中島さんによると、全国平均1.8産で乳牛は肉用に回されますが、なかとみ牧場では平均3.5産するそうです。その理由を中島さんは、「牛のストレスが少ないからそうなるんじゃないの。」と微笑みました。

 

放牧は糞の処理も容易


放牧には、糞の処理が容易という利点もあります。放牧中の牛の糞尿は自然に分解されますが、畜舎飼いで糞尿を野積み・素掘りすれば、硝酸性窒素で水系を汚染する、などの問題が発生します。なかとみ牧場では、畜舎から発生した糞尿は、堆肥化して、牧草地の肥料あるいは畜舎の敷材として、利用しています。敷材としては、藁などが良さそうに見えるかもしれませんが、藁には大腸菌などが繁殖しやすく、堆肥の方が清潔で良いそうです。牛は、不潔なものは決して口にしませんが、敷材の堆肥は、食べるそうです。

 

乳脂肪分にこだわる余り、放牧が減少していることの問題点は、農水省も認識しており、1999年3月発表の「新たな酪農・乳業対策大綱」では、3.5%以下の牛乳も円滑に流通させるよう勧告しました。また、(社)中央酪農会議等でも、牛乳のおいしさは乳脂肪分のみで決まるのではなく、無脂乳固形分も関係していると指摘しています。

 

  

なかとみ牧場では、搾乳舎の次に、たくさんの牛達が並ぶ畜舎内を見学し、最後に堆肥作りの現場を見せてもらいました。その後、バスで富士開拓農業協同組合が運営する「富士ミルクランド」へ移動して昼食を取りました。ミルクランドには、レストランの他に地元産品を売る店舗もあり、地元で有機栽培された野菜などの農産物も販売されています。昼食後は、富士開拓農協に移動し、参事の酒井良則氏から、「富士あさぎり高原放牧牛乳」を含む「有機の里づくり」についてのお話を伺いました。

 

「放牧牛乳」のきっかけをつくった「マザーズ」オーナー


「有機の里づくり」が始められるきっかけをつくったのは、実は「マザーズ」オーナーの小野敏明氏でした。首都圏に近く、北海道外としては珍しく広々した牧草地が広がる朝霧高原を訪れた小野氏は、「放牧」された牛達からの牛乳の供給を希望。それがきっかけで、「富士朝霧有機農業経済振興会」が1997年に発足し、「有機」の観点から地元産品の掘り起こしが行われました。そして、翌1998年から「放牧牛乳」が発売されました。「放牧牛乳」の生産者として選ばれたのは、細菌数が少ない特に良質の牛乳を生産していた宮島富士夫さんと、積極的に名乗りを上げた中島さんである。「有機の里づくり」から生まれた製品としては、「放牧牛乳」の他にも、「放牧豚」肉もあり、有機野菜へと広がってきました。

 

価格の違いはトレーサビリティ

「放牧牛乳」については、飼育方法や乳成分等について、細かい基準(努力目標)が設けられています。生産者のなかとみ牧場からは日量2.5トン、宮島さんの牧場からは日量1トンの牛乳が生産され、全量朝霧乳業鰍ノ買い取られます。同社は現在、そのうち日量約1トンを「放牧牛乳」として製品化しています。それ以外の牛乳は、他の生産者の牛乳と混ぜられて「富士あさぎり牛乳」として、主に静岡県内に宅配販売されています。朝霧乳業鰍フ販売量は日量約8トン。朝霧高原で、それ以上に生産されている牛乳は、森永など一般の大手メーカー等に販売されます。酒井さんは、「トレーサビリティ」という言葉を何回も口にしました。「富士あさぎり高原放牧牛乳」の生産者は中島さんか宮島さんと、はっきりしています。

 

「富士あさぎり高原放牧牛乳」は、九百ml瓶入りが46O円(うち100円は瓶代)、1g入り紙パックが26O円。マザーズ、JAC、人参クラブのほか、アニューなどでも販売されており、地元で宅配もされています。瓶代を引いても、瓶入りの方が価格は高いのですが、これは瓶の回収などの流通コストがかかるためです。現在、瓶入りで売られているのは「放牧牛乳」全体の約3割で、紙パック入りの方が販売量は伸びています。中島さんや宮島さんからの牛乳の買取価格は、他の一般牛乳と同じ「指定価格」(現在、メーカーへの販売価格は1gあたり100円前後で、生産者の手にわたるのは、1gあたり90円前後)ですが、「放牧牛乳」として販売するための基準遵守のための努力に報いるために、販売された「放牧牛乳」一本につき10円が買取価格に上乗せされ、生産者へ還元されているそうです(そうすると、間に入る富士開拓農協の取り分はほとんどない、と酒井さん)。

 

私が普段購入している生活クラブの瓶入り牛乳は900ml入りで一本240円(ただし、戸別配送の場合。班配送だと、本数に応じて205または220円)。72℃15秒殺菌。乳脂肪分は「3.4%以上」。「放牧」牛かどうかは、わかりません。何だか牛乳の脂肪分やら価格やらが急に気になりだしました。

 

文責:グリーンコンシューマー研究会 原子 和恵