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映画に観るCSR(その2)

 「CSR短信:映画に観るCSR」(バルディーズ研究会通信第136号所収)の続編として、ドラマとドキュメンタリーそれぞれ2本の計4本を取り上げてみたい。

「ナイロビの蜂」(2005年、英国)

まず、サスペンスドラマ2本のうち「ナイロビの蜂」(2005年・英国。2006年本邦公開)。

 舞台劇の映画化であるが、ケニアの現地ロケが中心で迫力がある。ナイロビに駐在する英国外交官が妻の不審な死に疑念を抱き、社会運動家であった妻の調査活動の足跡を追うことでアフリカで横行する薬物実験の実態が解明されていく。妻と違ってそれほど正義感の強くもない外交官が妻への愛情から次第に使命感を強め、官僚と大手製薬会社の巨大な組織の不正に対して命がけの闘いを挑んでいく。ハッピーエンドにはならないのだが、彼の目的は果たすことができる。

 日本公開は2006年で、キネマ旬報誌では6人の映画評論家がベストテンに選んでいた。同誌読者によるベストテンには入選したが、読者の選出では、社会性かエンターテインメント性の強いものがよく入選している。キャッチコピーは「国境を超えた、壮大なサスペンスの傑作!」である。

「フィクサー」(2007年、米国)

つづいては「フィクサー」(2007年・米国。2008年本邦公開)である。弁護士600人を擁するニューヨークの法律事務所で働くフィクサーが主人公である(映画ではフィクサー=もみ消し屋、としているが、示談担当であろうか)。この法律事務所では農薬汚染問題を起こした大手農薬会社への被害者約400人による集団訴訟を扱い和解交渉を進めている。
 主役のフィクサー(ジョージ・クルーニー)は8万ドルの借金を抱え家族関係にも波乱がある。退職も考えている。和解交渉では農薬汚染問題の真実は明るみに出ないが、担当弁護士とともに真実を探り農薬会社に刑事罰を科すべき事実を突き止める。それを農薬会社の敏腕な女性の法務本部長に察知され、2人は命を狙われる。車に爆薬を仕掛けられたクルーニーの方は帰途車を下車したため九死に一生を得るのだが、そこからクルーニーの報復が始まる。真実の証拠資料と引き換えに1000万ドルを農薬会社法務本部長に要求するのである。主人公にとっては生活を立て直すことが人生の課題であり、CSRの告発者にはならなかった現実がシニカルに描かれている。

 多くの賞にノミネートあるいは受賞し、キネマ旬報では5人の評論家がベストテンに入れている。日経新聞映画評の見出しは「訴訟社会の闇を照らす」である。

 「ナイロビの蜂」と「フィクサー」は、ともに企業の不正を題材にしているが、ナイロビの蜂の方はアフリカでの先進国企業の実態を追及し糾弾しているのに対して、フィクサーでは、法律事務所の実態を描きながら正義が大切か自分の生活利益が大事かという個人にとっての難問を突きつけている。

「ダーウィンの悪夢」(2004年、フランス・オーストリア・ベルギー)

では、次に長編ドキュメンタリー映画を2本。まず、「ダーウィンの悪夢」(2004年・フランス・オーストリア・ベルギー。2006年本邦公開)から。

 ある1人の男がアフリカ最大の湖、タンザニアのビクトリア湖にバケツ一杯の稚魚を放流した。この外来種の魚は1、2メートルの巨大な肉食魚「ナイルパーチ」であり在来種の魚類を駆逐して増え続けた。
 ナイルパーチの漁労が盛んになって漁業も一変した。現在毎日50トンが陸揚げされている。従業員1000人のこの魚の加工工場もできたが全てが輸出用。貨物輸送機で欧州や日本などに毎日輸出されている。日本では「白スズキ」と称され市販の弁当に白身の魚フライとして提供されているという。が、この新たな産業が地域社会を豊かにしているわけでは決してない。

 映画は加工工場主、夜警、牧師、娼婦、輸送機のパイロットなどにインタビューし、環境破壊、貧困、ドラッグ、エイズ、売春、ストリートチルドレンいう実態がドキュメントされる。ナイルパーチ加工工場の骨つき残渣を干して売って生活する現地の人も登場する。パイロットの証言から、輸送機の往路は南アフリカ経由で兵器の輸送もされていることが分かる。ナイルパーチを積んだ輸送機が飛び立ち「今日はロシアへ行くんだ」と少女が呟くところで映画は終わる。

 かっては多種多様な生物が棲息しその進化を観察できることから「ダーウィンの箱庭」と呼ばれていた地域の生態系は様変わりした。映画はグローバリズムの一断面を伝えてくれるが、改革するための行動を見出せない。「悪夢」というほかないのだろうか。

「未来の食卓」(2008年、フランス)

 さいごは明るい希望の見えるドキュメンタリー、「未来の食卓」(2008年・フランス。2009年本邦公開)。
 フランスのある学校で給食にオーガニック食材を導入した。野菜、果物、卵、肉など全ての農産物を有機に転換したのである。欧州では有機農産物の比率は数%。イタリアやオーストリアはさらに進んでいる。オーストリアのウイーンで5割の病院、3割の学校の食事は食材の農産物は有機であるという。フランスは遅れていて1.8%と少ない。この学校の取り組みが話題になった。この映画も当初20館で上映されたのが56館に広がり、有機農産物への関心と導入が急速に広がる社会現象を起こしたという。

 映画は有機素材の導入の過程や児童の反応、校庭でも児童が有機で野菜を育てる有様が描かれる。児童の家庭にも影響していく様子がドキュメントされる。それが原因とは断定してはいないが、殺虫剤(農薬)を多用していた家庭でがんにかかった児童も取材される。なぜなのかについては、講演会場が取材され、農薬の問題点が講師たち専門家の講演によって何回か説明される。児童たちが育てた野菜を収穫する喜び、家庭の食生活の変化、学校への見学者が増え導入校が広がっていく状況など、健康な将来の生活をイメージできる映画である。

まとめ

 日本の現実をみよう。有機農産物比率は0.18%とフランスの10分の1。生産者2800戸。酪農・畜産の有機はゼロに近い。この映画の上映館も閑散としていて館主も「入らないですね」と嘆いていた。
食品の環境側面については、水産品は別として、①地産地消(フードマイレージ)、②有機食材、③フェアトレード(途上国産品)が主要な評価基準である。有機もフェアトレードも世界的に急激に伸びている。最近ある食品メーカーの工場見学をした際、有機栽培に取り組んでいるとの説明を聞いた。あと2年かかるが製品化の日を待ちたい。日本でも消費者が求め評価し、事業者がこれに応える展開が広がるよう強く望みたい。

緑川芳樹(2010年1月31日)